東京高等裁判所 昭和41年(う)118号 判決
被告人 稲垣伝一 外一二名
〔抄 録〕
所論は、本件において贈与された掛ふとんおよび男物夏物下着上下は、いずれも、本件選挙とは無縁の、稲垣木材株式会社としてのその得意先に対する単なる中元の贈り物であるにかかわらず、原判決が、被告人伝一、同清一および同小美濃らの三名においてこれらを、来るべき選挙における被告人伝一のための選挙運動を依頼しその報酬とする趣旨で供与した物品であると認定したのは、事実誤認であると主張する。
しかしながら、前述のような後援会役員会における中元贈呈の可否に関する論議の経過、ならびに、本件各物品の贈与が稲垣木材株式会社名義の中元の形式になつているものの、これを決定するにあたつては、前叙のとおり、右会社とは直接関係のない被告人清一、同小美濃らが深くこれにかかわり合いをもつているものと認められること(同会社における従前の中元品の贈呈についても右両被告人らがこれに容喙していたことを窺わしめるような証拠はない。)本件の各物品は必らずしも右会社と深い取引関係のないところへも贈られていること、また、被告人伝一が、日頃私淑していた国会議員中村梅吉氏を訪ね、「もともと会社の取引先に贈つてきていた中元を今年も贈りたいが」といつて、同氏の意見を求めたのに対し、中村議員は、「選挙に出る気ならば今年はおやめなさい」といつて、とかく誤解をうけがちである所以を説き、中元の贈与の件に反対意見を表明していたこと、更に品物を受取つた者の中には野瀬常信のように、「こんなものを贈つてまずいじやないか」と被告人清一らにかえつて抗議めいた口吻をもらした者もあること、本件受供与者側の被告人らはいずれも稲垣伝一後援会の会員であり、本件以前から会員募集等の後援会活動を行つていたものであること等の諸点を念頭におきつつ、原判決挙示の関係各証拠を仔細に検討しこれを総合すれば、本件各物品は、名義上は稲垣木材株式会社の中元贈答品として送られてはいるが、その実、いずれも原判示のような選挙運動依頼の報酬とする趣旨で贈られたものであり、その各相手方においてもその情を知つてこれを受領したものであることを認めることができる。所論に鑑み全記録を精査検討しても、原判決が証拠の取捨選択を誤り事実を誤認したものとは認められないから論旨は理由がない。
(樋口 小川 金末)